テクニカルライターはなくなる?AI時代でも価値が高まる3つの理由を解説します

テクニカルライターはなくなる? コラム

こんにちは!キウイと申します。
産業機器メーカーで機械設計者として勤務し、社内向けの機器操作マニュアルや装置の手順書の作成にも携わっています。

最近、「テクニカルライターはなくなり、AIに置き換えられるでは?」という声を耳にするようになりました。ChatGPTのような生成AIが普及し、文章を自動で作成できるようになったからです。

しかし結論から言うと、テクニカルライターの仕事がなくなり、完全にAIに置き換わることはありません
むしろ、製造業においてはAI時代だからこそ、テクニカルライターは生産性を高め、製造業マーケティングのコンテンツクリエイターとしての価値はあり続けるでしょう。

この記事では、現役エンジニアの視点から「テクニカルライターがなくならない理由」「企業はどのようにテクニカルライター人材を活用すべきか」について解説します。
AI時代におけるテクニカルライティングの役割を整理したい経営者・マーケティング担当の方は、ぜひ最後までご覧ください。

テクニカルライターとは

テクニカルライターとは、製品や技術の仕組みをわかりやすく伝える専門職です。
代表的な業務には、次のようなものがあります。

  • 製品カタログや操作マニュアルの作成
  • 技術資料やユーザー教育用ドキュメントの整備
  • Webサイトの技術コラムや、展示会向けのパネル制作

特に製造業やIT業界では、設計者や開発者が書くには時間がかかるマニュアル制作をテクニカルライターが担当することで、自社の製品の使い方・魅力を顧客に伝える役割を担っています。

テクニカルライターの需要は景気に大きく左右される

テクニカルライターが在籍する製造業やIT業界は、仕事の量が景気に大きく左右されます。景気が悪いときは、設備投資や新規開発案件が少なくなり、その分製品マニュアルを制作する数も少なくなります。

また、テクニカルライターの雇用形態は正社員以外のケースも多いです。テクニカルライターの一般的な就業形態として、自営やフリーランスが80%というデータもあります1。景気が悪くなると業務委託や派遣社員の契約終了が増える傾向にあります。実際、私の勤務先のメーカーもコロナショック時は全面的に派遣社員の契約を見直す、ということをやっていました。

しかし、それは雇用形態としての波であって、テクニカルライターそのものの必要性が失われるという話ではありません。

むしろ、製品が高機能化・海外展開を進めるほど、「ユーザーに製品の特徴や使い方を分かりやすく伝える」ことは重要です。文化的背景・価値観・製品に対する理解レベルが異なるユーザーに製品が届く機会が増えるからです。

テクニカルライターの需要は景気の波に左右されることがあっても、「技術や製品の機能を正しく、分かりやすく伝える力」そのものは、景気の良し悪しに関係なく求められ続けます

テクニカルライターがなくならない3つの理由

筆者がテクニカルライターがなくならないと考える3つの理由は、以下の通りです。

理由①:技術や製品機能の詳細はAIでは書けない

AIが生成する文章は、基本的にインターネット上で公開された情報をもとに学習されています。
一方、製造業の設計情報や製品機能の詳細、調整ノウハウなどは外部に公開されていないクローズドな情報です。技術マニュアルといったクローズドな情報を多く盛り込む文章はAIで書くのは現実的ではないでしょう。

例えば、装置の立ち上げ手順、部品の組み付け条件、調整時の注意点などは、社内マニュアルや担当者の経験ベースから文章を起こす必要があります。
AIに「この装置の初期設定方法を説明して」と指示しても、一般論しか返ってこないのが実情なのです。

筆者も機械設計業務でAI(CopilotやChatGPTなど)を活用することがあります。しかし機構の細部や製造現場の事情になると、AIは正確な回答を生成できません。

現場の知識を理解して正確に言語化する力は、今も人間にしかできない仕事なのです。

理由②:AIが書いた文章はそのまま採用できない

AIは文章を整えるのが得意ですが、内容の正確性までは保証できません。
特に技術情報では、わずかな誤りが安全性や信頼性に関わるため、人によるファクトチェックが不可欠です。

2022年にChatGPTがリリースされて3年経ち、AIのハルシネーション(事実に基づかない、もっともらしい嘘)は減ってきた印象はあります。しかし、品質保証という観点では最終的なチェックは人が行うべきでしょう。

理由③:紙媒体以外のメディアで伝える仕事が増えた

「紙のマニュアルが減っているから、ライターの仕事も減るのでは?」
そう考える方も多いかもしれません。

しかし、実際は伝える手段が多様化しているだけであり、紙媒体以外のメディアに目を向けるとテクニカルライターの活躍の場はむしろ広がっています。

製造業やIT製品においては、以下のようなデジタル媒体がユーザー教育として活用されています。

  • PDFやWeb形式の電子マニュアル
  • スマートフォンやタブレットで閲覧できるモバイル向けマニュアル
  • 動画・アニメーションによる教育用・プロモーション用コンテンツ
  • 製品内部に組み込まれるインタラクティブチュートリアル

紙の媒体が減っても、「伝える」という仕事そのものはなくなりません。テクニカルライターは、このような電子媒体などのコンテンツ制作に関わることで仕事の機会があります。

企業がテクニカルライターを活用すべき3つの理由

企業がテクニカルライターを活用することは、企業の生産性を高め、自社のブランド力を高めることにつながります。ここでは、テクニカルライターを活用する企業側のメリットを3つ解説します。

理由①:設計者の負担を軽減し、開発スピードを上げられる

製造業の現場では、設計者が図面作成や試作、検証、生産立ち上げ時の初期流動対応など多くのタスクを抱えています。
そのうえで製品マニュアルや取扱説明書、仕様書の作成まで担当するのは、現実的にはかなりの負担です。

テクニカルライターが加わることで、「設計者の知識を社外のユーザーに向けて文章化する」工程を分担できます。設計者は本来の業務に集中でき、ドキュメント制作の遅れによる開発停滞を防ぐことができます。

理由②:AIを活用することで、情報発信の生産性を高められる

AIが書いた文章をそのまま採用できないのは前述したとおりですが、AIを文章作成に活用することで生産性を高めることができます。

  • 製品機能の説明はライターが書く
  • AIが内容を整理し、誤字脱字をチェックする
  • マニュアルの最終形に仕上げるのはライターや編集者など人が行う

というように、AIをアシスタントとして活用すればテクニカルライターの生産性は高まります。AIを正しく使えるテクニカルライターがいれば、発信スピードと品質を両立することができるでしょう。

AIを使ったマニュアル作成の効率化として、AIに線画を生成してもらうという方法があります。下記のXのポストでは、Googleの生成AI「Gemini」が製品の写真から線図を作っています。製品マニュアルの図にも使えそうなアイデアです。

理由③:紙媒体以外のメディアで顧客理解・顧客教育を促進できる

ユーザーマニュアルが紙媒体以外のメディアになることで、製品やサービスの顧客理解・顧客教育の新しい取り組みができます。

例えば、SaaS型のソフトウェア製品やクラウドサービスでは、ユーザーが画面を操作しながら自然に使い方を学べるインタラクティブマニュアルがあります。

最近のゲームでは、紙のマニュアルのページ数が減り、序盤のチュートリアルでゲームを進めながら操作を覚えるものが多くなっています。このようなUI/UX設計を製品内に組み込むことは、国内外の幅広いユーザーに使ってもらうためには重要な観点です。

テクニカルライターがこうしたインタラクティブなコンテンツ制作に関わることで、
「伝える文章の専門家」から「体験を設計するクリエイター」へと役割を拡張できます。

文章作成とUI/UX設計はまた違ったスキルが必要ですが、社内のキャリア設計や本人の希望を汲み取れば、このようなキャリアを築くことは可能だと思います。結果的に、企業にとってもライター本人にとっても新たな価値創出の機会が生まれるでしょう。

まとめ

AIが進化しても、テクニカルライターの仕事はなくなりません。
なぜなら、技術を正確に理解し、読者に誤解なく伝えるという役割は人間にしかできないからです。

製造業の企業にとって、テクニカルライターは

  • 社内の製品情報を「社外のユーザーに伝わる形」に置き換え、
  • 製品マニュアルで顧客理解・顧客教育を促進し、
  • 製品の正しい使い方を分かりやすく伝える形で、自社ブランドを支える存在です。

AIを上手に活用しながら、情報発信と顧客教育のプロフェッショナルになることでテクニカルライターの価値はこれからもあり続けるでしょう。

  1. 職業情報提供サイト(job tag)「テクニカルライター↩︎

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