近年、都市部を中心に「副業」を認める企業が増え、専門スキルを持つ人材が地方企業のプロジェクトに参加するケースも少しずつ増えてきました。
一方で、実際に副業人材を受け入れたことがある中小企業は少なく、「副業人材をどのように活用したらいいのか分からない」「自社にとって本当にメリットがあるのか不安」という経営者の方も多いと思います。
特に製造業では、専門的な設計・技術ノウハウを持つ人材が不足しており、外部の力をうまく取り込むことで新規事業や開発スピードを加速させるカギとなりえます。
今回の記事では、筆者自身の副業経験も踏まえながら、副業人材を受け入れる際に押さえておきたい3つのポイントを紹介します。
社内の人材不足を補い、新しい知見を取り入れるチャンスとして、副業人材の活用を前向きに検討してみましょう。
副業受け入れ企業がつまずきやすい3つのポイント
副業人材の受け入れには大きなメリットがあるものの、必ずしもうまくいくというわけではありません。
特に副業人材の受け入れに慣れていない企業では、社内体制や仕事の進め方が従来の「正社員前提」のままになっているケースが多く、そこにギャップが生まれやすいです。
日経新聞の調査では、都市圏で働く人が地方企業で副業を行った際に苦労した点として、次の3つが上位に挙げられています1。
- チームメンバーとのコミュニケーションが難しかった
- 仕事の内容説明や要件定義があいまいだった
- 仕事に見合った報酬が得られなかった
これらは裏を返せば、企業側が副業人材を受け入れる際に準備不足になりがちなポイントでもあります。
つまり、副業人材が実際に苦労を感じた点をあらかじめ対策しておくことで、多くのつまずきを事前に防ぐことができるのです。
以下では、それぞれのポイントを企業目線で具体的に見ていきます。
①副業人材とのコミュニケーション体制が整っていない
社内のメンバー同士であれば、ちょっとした雑談や現場でのすり合わせで仕事が進むことも多いです。これはメンバー同士が社内に常駐しているからわかる空気感や口頭でのやりとりで情報交換ができるからです。
一方で副業人材は社内に常駐せず、リモートと出張を組み合わせて企業と打ち合わせをすることになります。このような場合、出社を前提としたコミュニケーション体制では意思疎通がうまくできないケースが出てきます。
情報共有の仕組みが整っていないと、業務に対してどこまでやるべきかが伝わらず、結果的に認識のズレや手戻りが発生してしまいます。
②依頼内容の整理・要件定義が不十分なままスタートしてしまう
副業人材を活用するうえで、もう一つよくあるつまずきが「依頼内容があいまいなまま仕事を始めてしまう」ことです。
社内であれば、とりあえずプロジェクトを始めた後、上司や同僚とのすり合わせを重ねながら進めることもできます。副業人材の場合は最初の段階で依頼範囲や成果物、最終的なゴールを明確にしておかないと、途中で認識のズレが発生しやすくなります。
例えば、依頼側の企業が「新規開発の機械の設計図を描いてほしい」と考えていても、実際には機械の要求仕様を洗い出すことが必要になるケースも考えられます。一方、副業人材は「図面作成だけ」と理解していると、想定と実態のギャップが生まれ、納期や品質にも影響が出てしまいます。
③報酬設定が適切でない
副業人材を活用する際に、意外と見落とされがちなのが「報酬設定」です。
特に製造業では「できるだけコストを抑える」という文化が根強く、原価削減の延長で副業人材の報酬も低く抑えてしまうケースが少なくありません。
もちろん、副業人材もお金だけで動いているわけではなく、「自分の技術を活かしたい」「新しい分野に関わりたい」といった動機を持っている人も多いです。
ただし、あまりにも低い報酬は持続性がありません。優秀な人材を確保できなかったり、途中でミスマッチが起きて契約が続かなくなったりするリスクが高まります。
副業人材の活用を成功させる3つのポイント
副業人材の活用を成功させるポイントは、以下の3つです。
- ①事前に依頼内容を明確にする
- ②定期的なミーティングで情報共有の仕組みをつくる
- ③仕事に見合う適正な報酬を設定する
順番に詳しく見ていきましょう。
ポイント①:事前に依頼内容を明確にする
副業人材との協働をスムーズに進めるうえで、最初のステップとして特に重要なのが依頼内容を明確にすることです。どのような業務を依頼し、どのような成果を期待するのかを明確にしておくことで、双方の認識のズレを防ぎ、スムーズなスタートを切ることができます。
例えば「設計業務をお願いしたい」という一言でも、人によって想定する範囲は大きく異なります。仕様検討や部品選定、コスト試算を含む場合もあれば、図面作成のみを想定しているケースもあります。ここを曖昧にしたまま進めてしまうと、「ここまでやるとは思わなかった」「依頼した内容と違う」というトラブルの原因になりかねません。
最近では、企業と副業人材をマッチングするプラットフォームも充実しています。たとえば、HiPro Directでは山形県や石川県と連携し、企業と人材のマッチング支援を行っています。こうしたサービスを活用すれば、初めての企業でも要件定義のサポートを受けながら進めることが可能です。


最初の段階で「何を・どのレベルまで・いつまでに」やるのかを丁寧に詰めておくことで、後のコミュニケーションコストや手戻りを大幅に減らすことができます。
②定期的にミーティングする機会を設ける
副業人材との仕事を推進するうえで、定期的なミーティングは効果的です。
定期的なミーティングを設定すると、「毎週(毎月)のミーティングがあることで、いつまでに〇〇を取り組む必要がある」とお互い意識するようになります。したがって、プロジェクトの延期・フェードアウトを防ぎ、着実に業務を進めるきっかけとなります。
筆者の場合は、平日の18時から週1回、オンラインで定例ミーティングを設定しています。定時で本業を終えてから帰宅後すぐ行える時間に設定しており、クライアント側にもこの時間を確保していただいています(ご協力に感謝です!)。
定例ミーティングではお互いの進捗報告や課題共有、次回までの作業内容の確認などを1時間ほど行っています。もちろん、ものづくりのフェーズによっては毎週報告する内容がないこともあります。その場合はスキップすることもあります。
ただ、「基本は週1」のような共通認識を持っておくことで、プロジェクトが確実に進んでいる実感を持っています。
③仕事に見合う報酬を設定する
副業人材を活用するうえで、報酬設定も軽視できない要素です。適切な報酬を提示できるかどうかは、優秀な人材を確保できるか、長期的な協働関係を築けるかを左右します。
製造業では「原価を下げる」意識が強い企業が多いため、つい人件費も抑えようと考えがちですが、人材活用においては「経費」ではなく「将来への投資」という目線で考える必要があります。
副業人材は、本業以外の空き時間を使って専門スキルを提供しています。そのため、相場よりも極端に低い報酬を提示すると、「この企業は自分のスキルを軽視しているのでは」と受け取られ、せっかくのマッチングが成立しなかったり、早期に契約が終わってしまったりする可能性があります。
報酬相場は職種や業務内容によって幅がありますので、Google検索で「〇〇(職種や仕事内容) 業務委託 相場」などで調べてみるとよいでしょう。
設計を委託したい場合の相場は、設計企業のホームページをいくつか調べて料金表を確認してみましょう。例えば、設計受託企業のアドライズの場合、図面バラシ、組立図、モデル作成といった設計費の時間単価は3,800円となっています2。
まとめ:コミュニケーションの方法を工夫することがカギ
今回は、実際に副業を経験した人の苦労した点から、副業人材の活用を成功させる3つのポイントについて解説しました。
会社に常駐している社員と違って、副業人材が業務を進めるには企業側にもコミュニケーションの方法を工夫することが必要です。実際、筆者も週1の定例ミーティングを副業先の企業と行い、進捗共有をすることでプロジェクトが前に進んでいる実感を持てています。
もちろん、これらの点に注意していても最初の試行錯誤はうまくいかないことがあるかもしれません。しかし、そのプロセスこそが将来的に企業独自の「副業人材活用ノウハウ」になっていきます。
一度ノウハウが蓄積されれば、次からはよりスムーズに、そして戦略的に副業人材を活用できるようになれると思います。人材不足に悩む地方の中小企業こそ、副業人材という新しい選択肢を取り入れることで、事業の可能性を広げるチャンスが生まれると考えています。
- 出典:日本経済新聞「副業はバラ色ではなかった 解禁5年、企業と働き手にずれ」 ↩︎
- 出典:株式会社アドライズ「機械設計の外注・アウトソーシングを専門受託!3DCADの代行を請け負います」 ↩︎

