こんにちは!キウイと申します。
産業機器メーカーに勤める傍ら、ブログ「キウイ設計」を運用したり、業務委託として機械設計の副業をしたりしています。
世界を見渡せば、GAFAM(Google、Amazon、Facebook、Apple、Microsoft)といった巨大テック企業は、そのほとんどがソフトウェアベースの企業です。また近年急速に台頭しているAI関連産業も、ソフトウェアベースの技術が目立ちます。まさに今は情報工学がトレンドと言える時代です。
では、昔からある機械工学はもはや時代遅れなのでしょうか?
筆者はそうは思いません。むしろ機械工学は、一度身に付ければ会社に依存せずどこでも通用する普遍的なスキルだと考えています。
今回は現役の機械設計者である筆者が、機械工学が時代遅れではない理由4選を解説します。
🙍♂️「大学の進路を機械工学の学部にしようか迷っている」
🙍♀️「機械工学を専攻しているが、就職は機械メーカーにしようか迷っている」
👨💼「機械系エンジニアとしてキャリアを積んでいるが、このままでいいか迷っている」
こんな思いを抱えている方は、ぜひ最後までお読みください!
機械系エンジニアは企業から求められている
2025年現在、企業は機械系エンジニアを強く求めています。
転職・求人サイトの「doda」の調査によると、エンジニア(機械・電機)の転職求人倍率は5.38と、全体の求人倍率2.43を大きく上回っています3。
また、エンジニアリングサービス会社のクエスト・グローバルの推計によると、日本の半導体製造装置企業ではソフトウェアとハードウェアのエンジニアがそれぞれ3000人足りていないと見ています(同業界では2万4000人がエンジニアとして従事)1。
機械系エンジニアの成り手となる若者からの人気が減っている一方、ボリュームゾーンである50~60代のベテランエンジニアが退職時期を迎えています。そのため、メーカーの将来を担う若い機械系エンジニアは重宝される存在と言えます。
機械設計者が人手不足である理由については、こちらの記事でも解説しました。
機械工学が時代遅れではない理由4選
筆者はメーカーに約15年間機械設計者として勤めています。その実務経験も踏まえて、「機械工学が時代遅れではない」と考える理由4選は以下の通りです。
機械工学が時代遅れではない理由①:汎用性が高く、腐りにくい

機械工学ではいわゆる「四力(よんりき)」と呼ばれる4つの力学を中心に学びます。
✅機械工学の四力
- 材料力学
- 機械力学
- 熱力学
- 流体力学
これらは学問としてはすでに体系化されており、内容としては何十年も変わっていません。そして機械系エンジニアは今もなお、これら四力をベースとした技術を扱っています。
なぜなら機械の動きは物理現象であり、時代によって変わらない普遍的なものだからです。
完成された工学分野であるがゆえに、学問的にまったく新しい発見は少ないかもしれません。しかし、機械工学に基づいたエンジニアリングは流行りに左右されない「腐りにくいスキル」と言えます。
ガソリン車が電気自動車になっても、車の動きは物理現象に支配され、それを理論的に説明し、ものづくりができる図面にまで落とし込めるのはまさに機械工学の領域なのです。
機械工学が時代遅れではない理由②:AIに代替されにくい

機械系エンジニアの仕事はAIに代替されにくい分野です。理由は、機械系エンジニアは実際のものを扱う仕事だからです。設計した機械の組立に立ち会ったり、評価をしたりという実作業が発生しますが、このような現物に触れる仕事をAIが取って代わるのは難しいでしょう。。
また、機械の設計図となる図面もAIに作ってもらうことはまだ難しそうです2。
設計結果が妥当であるかどうか、品質が問題ないかを最終ジャッジするのはやはり人間です。それも、機械工学のバックグラウンドと製造業での実務経験がある人間の仕事と言えるでしょう。
機械系エンジニアにとってAIは効率化ツール。設計やデータ整理を効率化するものであって、自身の仕事に代替されるものではありません。
機械工学が時代遅れではない理由③:製造業は外需でお金を稼いでいる

機械工学を専攻した多くの学生の就職先となる製造業は、海外売上比率が50%以上の企業が数多く存在します。
今でこそ「安い日本」と言われますが、20年以上前は日本の人件費は高いとみなされ、多くの製造業は海外に進出し海外生産、海外販売を積極的に行いました。その結果、製造業は外需でお金を稼ぐ構造を確立しています。
人口減少が続く日本だけの需要(内需)だけではなく、海外進出することで製造業は時代遅れではなく成長のチャンスがある業種と言えるでしょう。
参考までに、海外売上比率が50%を超える企業の一部をリストにしてみました。製造業の幅広い業種の企業が含まれていることが分かります。
| 企業名 | 業種 | 売上高[百万円] | 海外売上比率 | 対象年度 |
| オークマ3 | 工作機械 | 206,822 | 70.3% | 2024年度 |
| オムロン4 | FA/制御機器 | 801,753 | 55.7% | 2024年度 |
| 安川電機5 | FA/ロボット | 537,682 | 72.2% | 2024年度 |
| 村田製作所6 | 電子部品 | 1,743,352 | 92.6% | 2024年度 |
| 竹内製作所7 | 建設機械 | 213,230 | 99% | 2024年度 |
| レオン自動機8 | 食品機械 | 39,214 | 69% | 2024年度 |
機械工学が時代遅れではない理由④:経験が重要である

機械工学は、学んだだけでは一人前のエンジニアとはいえません。実務経験が重要で、それも経験を積み上げるほどエンジニアとしてのスキルが上がっていく分野です。
「この部品の形状はこうだから、これくらいの公差までは入れられる」
「過去に〇〇の設計トラブルがあったから、この設計はこうすればトラブルを未然に防げるだろう」
こうした「勘どころ」のようなものは、経験を積むほどに見えてくるようになります。経験は積み上げるほどに次回の設計、ものづくりに活きてきます。
筆者は機械系エンジニアとして勤務して10年以上になります。まだまだ見通しが甘いこともありますが、それでも入社1年目、5年目よりは設計スキルが上がっていると思います。
機械設計の仕事については、下記の記事で仕事内容や年収、向いている人の特徴などを解説しました。
会社の業績はどの業種でも未来は不確実

最近、大手メーカーで早期退職の報道が目立ちますね。そんなニュースを見て、機械工学はもう人員が要らないのでは?と不安に思うかもしれません。
しかし、それはその会社の事業を取り巻く環境が変わっただけであり、機械工学というスキル自体がオワコン(時代遅れ)になったからではありません。
経験のある機械設計者は企業は欲しがっています。それは前述したように、転職有効求人倍率に表れています。
たとえ年齢的に早期退職のターゲットとなったとしても、機械工学を基盤スキルとし、実務経験が豊富な機械系エンジニアは他の会社でも十分通用します。実際に、私の職場の機械系エンジニアの先輩も、48歳で転職が決まりました。
ただし製造業の就職・転職における求人の多さは景気に大きく左右されます。機械系エンジニアに限った話ではありませんが、転職においてタイミングは非常に重要です。2024年~2025年現在は、景気動向は比較的良く、求人が多い時期です。
自分の興味・関心があるならそれが正解

仕事を続けるには情熱が大事です。興味のある仕事、時間を忘れて取り組める仕事がみなさんにとっての良い仕事です。結果的にそのほうが長続きすると思います。
「機械系の仕事に就いたが、合っていない」と感じるなら、それは機械工学がダメなのではなく、単に会社とマッチしていないかもしれません。その場合は、転職も有力な選択肢です。
「この会社なら一生安泰」とは、もはやどの業種でも言えません。そもそも、ビジネスとはもともと安泰ではなく、時代によって変動していくものです。盛者必衰という言葉もありますし、今勝ち組と言われている企業が10年後20年後同じポジションにいるかも保証はできません。
それは機械工学だろうが情報工学だろうが、他のどの専攻であろうが同じことです。
自分が興味を持った・すでに身に付けている機械工学の専攻やスキルを活かして「どのような業種で、どのように働けるか?」を考えるほうが建設的ではないでしょうか。
- MONOist「6000人のエンジニアが不足、日本が強み持つ半導体製造装置産業の課題」 ↩︎
- 図面バンク「【2024年最新】AIで図面作成は可能?無料で使えるChatGPTとClaudeで検証してみた!」 ↩︎
- オークマ「2026年3月期 第2四半期(中間期)決算短信[日本基準](連結)」 ↩︎
- オムロン「2025年3月期 決算短信[米国基準](連結)」 ↩︎
- 安川電機「YASKAWAレポート 2025」 ↩︎
- 村田製作所「2025年3月期 決算短信[IFRS](連結)」 ↩︎
- 竹内製作所「2026年2月期・第2四半期 決算参考資料」 ↩︎
- レオン自動機「2025年3月期 決算説明会用資料」 ↩︎


