機械工学の将来性について、現役の機械系エンジニアが解説します

機械工学の将来性について現役機械系エンジニアが解説 コラム

こんにちは!キウイと申します。
産業機器メーカーに機械系エンジニアとして勤める傍ら、ブログ「キウイ設計」を運用したり、業務委託として機械設計の副業をしたりしています。

今回は、機械工学に将来性ある4つの理由について解説します。

機械工学を進路に考えているけど、将来性はどうなんだろう

機械工学を専攻しているけど、就職先に将来性はあるのかな…

機械系エンジニアだけど、他の人はこのキャリアについてどう捉えているのだろう

こう考えている工学部の学生さんや、機械工学に携わっている方は多いのではないでしょうか。

筆者は機械工学には将来性があると考えており、その理由は以下の4つです。

✅機械工学に将来性がある理由①:企業からの需要があり、業種を超えて活躍の機会がある
✅機械工学に将来性がある理由②:時代遅れの技術にならない
✅機械工学に将来性がある理由③:AIに代替されにくい
✅機械工学に将来性がある理由④:年収の高い企業に就職できるチャンスがある

上記が、この記事の結論になります。

機械工学の将来性に不安を感じている、という方はぜひお読みください。

機械工学に将来性がある理由①:企業からの需要があり、業種を超えて活躍の機会がある

機械工学を学んだ学生さんは、多くは機械系エンジニアとして製造業の企業に就職していく進路を取ることが多いです。

そして機械系エンジニアと一口に言っても、彼ら/彼女らが働く企業の業種は多く、また企業側も機械系エンジニアを求めています。

下の図は、経済産業省が企業に向けて実施したアンケートで、5年後技術者が不足すると予想される分野の回答結果です1

5年後技術者が不足すると予想される分野(画像引用:経済産業省「理工系人材需給状況に関する調査結果概要」)

少し見づらいですが、結果は

  • 1位:機械工学(12.4%)
  • 2位:電力(7.4%)
  • 3位:通信・ネットワーク・セキュリティ系(5.8%)

と、機械工学は技術者が不足すると予想される分野の1位になっています。

平成30年(2018年)の調査結果であり少し古いデータですが、機械系エンジニアは一朝一夕では育たず、企業が欲する人材としても体感は大きく変わっていません。

機械工学を学んだ機械系エンジニアは、企業からの需要があると言っていいでしょう。

また、機械系エンジニアの就職先は幅広いです。具体的には、次のような業種の企業で機械工学を学んだ人材が求められています。

  • 自動車:大手完成車メーカーから部品サプライヤーなど
  • 産業機械:工作機械、包装機械、産業用ロボットなど
  • 電機:白物家電、車載電装品、映像機器など
  • 半導体製造装置:エッチング装置やMEMS製造装置など
  • 精密機器:カメラ・光学機器や計測装置、分析装置など
  • 建設機械:ショベルカー、ブルドーザーなど
  • 重工業:船舶や発電機、航空機など

そして、機械系エンジニアは実力を付ければ、他の業種に移ることも可能です。
私は産業機械メーカーで働いていますが、転職した同僚は自動車関係、半導体製造装置、電機など、異なる業種に移っていった人も多いです。

エンジニアリングサービス会社のクエスト・グローバルの推計によると、日本の半導体製造装置企業ではソフトウェアとハードウェアのエンジニアがそれぞれ3000人足りていないと見ています(同業界では2万4000人がエンジニアとして従事)2

同社によれば、

ハードウェアのエンジニアに関しては、若い人たちがなりたい職業ではなくなってきており、人材のパイプラインがどんどん細くなっている

とのこと。

筆者の感覚としても、今は「エンジニア」を名乗るにしてもIT業界のほうが人気があるように見えます。報酬が高く、リモートワークもしやすいなど働き方に自由度があるのも人気の要因ではないかと思います。

確かに、機械系エンジニアは報酬・自由度の点ではIT系エンジニアに劣るかもしれませんが、その分「AIに代替されにくい」というメリットがあります(この点は後述)。

若い人は成り手が少なく、企業から求められるということは、逆に言えば機械工学の専攻、キャリアを活かしたい若い人はチャンスと言えるでしょう。

機械系エンジニアの仕事の一つ、機械設計が人手不足である理由と対策については、こちらの記事でも解説しました。

機械工学に将来性がある理由②:時代遅れの技術にならない

機械工学では、主に以下の力学(いわゆる「四力」と呼ばれる)を体系的に学びます。

  • 材料力学:構造物の強度やたわみをあつかう
  • 機械力学:物体の振動時の挙動をあつかう
  • 熱力学:熱の移動やエネルギー変換をあつかう
  • 流体力学:流体の挙動をあつかう

これらの力学は、陳腐化することはありません。
なぜなら、機械の動きは必ず物理法則に支配され、機械工学で学ぶ「四力」はその法則を定量的に表す普遍的な学問だからです。

時代が現代であろうが、戦国時代であろうが

  • ばねー質量系の固有振動数は f0=1/(2π)×√(k/M)
  • ボルツマン定数は1.380649×10-23 [JK-1]

と、変わることはありません。

つくるものがガソリン車から電気自動車に変わっても、ガラケーからスマホに変わっても、製品のハードウェア面での設計根拠を支えるのは機械工学であり続けるのです。

「機械工学が時代遅れでない理由4選」という記事を書きました。こちらでも機械工学が普遍的で腐らない学問であることを解説しています。

機械工学に将来性がある理由③:AIに代替されにくい

生成AIの台頭により、AIが人間の業務を代替する、ということが起き始めています。

例えば、NTTは「5年で業務の半分以上を代替できる」との考えを明かしました3。先行するのはコールセンターの分野。同社は故障に対応する問い合わせを「AIオペレーター」に置き換え、担当従業員2500人を2027年度以降に半分以下にする方針です。

一方で、機械工学の仕事はAIに代替されにくいです。

理由は、現物を相手にする場面が多いからです。実際に工場へ行って製造に立ち会ったり、加工された部品を手に取って確認したり。時には完成した部品の寸法を自分で測定したり、組み立ての微調整をすることもあります。

ときには現場で汗をかくような泥臭い仕事もあるぶん、AIに代替されにくいとも言えます。

もちろん、製造業分野のAIの進出によって、設計作業の一部がAIで効率化されることもあるかもしれません。しかし、現物を見ながら判断する場面や製造現場とのコミュニケーションといった「人だからできる仕事」は今後も残り続けるでしょう。

機械設計の具体的な仕事内容については、こちらの記事でも解説しました。

機械工学に将来性がある理由④:年収の高い企業に就職できるチャンスがある

機械工学科を卒業した学生は、年収の高い企業(平均年収1000万円以上)に就職できるチャンスがあります

下の表は、平均年収が高い会社ランキングの1~50位4と、それぞれの会社に機械系エンジニアがいる会社にチェックを入れたものです。

順位社名平均年収
(万円)
業種機械系エンジニアがいる会社
1M&Aキャピタルパートナーズ2688サービス業(M&A仲介)
2キーエンス2182電子機器メーカー(FA用センサ・計測機器)5
3ヒューリック1803不動産業(ディベロッパー・賃貸)
4地主1694不動産業(底地投資ビジネス)
5伊藤忠商事1579総合商社
6三菱商事1558総合商社
7三井物産1549総合商社
8ソレイジア・ファーマ1490医薬品(バイオ医薬品開発)
9丸紅1469総合商社
10ストライク1432サービス業(M&A仲介)
11住友商事1406総合商社
12レーザーテック1379半導体製造装置メーカー6
13霞が関キャピタル1311不動産業(不動産コンサル・再エネ開発)
14ジャストシステム1309情報・通信業
15東京エレクトロン1285半導体製造装置メーカー7
16マーキュリアホールディングス1282金融業(投資ファンド運用)
17三井不動産1274不動産業(ディベロッパー)
18三菱地所1264不動産業(ディベロッパー)
19ジャフコ グループ1252金融業(ベンチャーキャピタル)
20ファナック1248FA機器・産業用ロボットメーカー8
21サンバイオ1247医薬品(再生医療バイオベンチャー)
22フロンティア・マネジメント1233サービス業(経営コンサルティング)
23野村総合研究所1232情報・通信業(シンクタンク)
24日本M&Aセンターホールディングス1202サービス業(M&A仲介)
25シンバイオ製薬1194医薬品(創薬ベンチャー)
26ランドビジネス1158不動産業(ディベロッパー)
27中外製薬1155医薬品(製薬メーカー)9
28ディスコ1140半導体製造装置メーカー10
29ショーボンドホールディングス1137建設業(インフラ補修)
30鹿島1127建設業(ゼネコン)11
31ロードスターキャピタル1124不動産業(不動産投資)
32ワコム1122電機機器メーカー12
33ローツェ1122機械メーカー(半導体搬送ロボット)13
34ビジョナル1119情報・通信業(インターネットサービス)
35プロパスト1117不動産業(ディベロッパー)
36三菱総合研究所1111情報・通信業(シンクタンク)
37ベイカレント・コンサルティング1106サービス業(コンサルティング)
38武田薬品工業1105医薬品(製薬メーカー)14
39シグマクシス・ホールディングス1092サービス業(経営・DXコンサル)
40野村ホールディングス1090金融業(証券・投資銀行)
41ドリームインキュベータ1086サービス業(戦略コンサル・事業投資)
42ソニーグループ1084電気機器(エレクトロニクス・エンターテインメント)15
43日本郵船1082海運業(船舶運送・物流)16
44アンジェス1078医薬品(バイオ医薬品開発)
45ニホンオラクル1073情報・通信業(ソフトウェア・ITサービス)
46平和不動産1067不動産業(賃貸など)
47アステラス製薬1064医薬品(製薬メーカー)17
48ISID1057情報・通信業(ITコンサル・システム開発)
49アクセル1057電子部品・半導体(ファブレス半導体メーカー)
50WOWOW1047情報・通信業(メディア・放送)
出典:東洋経済オンライン「「平均年収が高い会社」ランキング全国トップ500」より。業種および機械系エンジニアの在籍状況は筆者独自調査から追記

このように、平均年収が高い会社ランキング 50社中13社に機械系エンジニアが在籍しています。つまり、機械系エンジニアでも就職活動や転職活動の結果次第では、日本のトップランク帯の年収が稼げる会社に就職できるチャンスがあるのです。

年収トップランキングに機械系エンジニアが在籍する会社がこれだけランクインしているのは、みなさんは多いと感じたでしょうか?それとも少ないと感じましたか?

筆者は、「意外と多いな」と感じました。

製造業はたいてい自社で工場を持ち、設備や作業者など固定費を多く抱え込む傾向があります。そのため、工場を持たない=固定費の少ないコンサルや金融、ITといった業種と比べると従業員に残せる原資=給与はどうしても劣後する印象がありました。

しかし、上記ランキングに入る企業は自社の商品価値を高める技術・ノウハウ・ビジネスモデルを持っています。このように収益性の高い企業では、製造業であっても年収1000万円超えを実現しています。

上位年収ランキングにおける機械設計者の在籍状況を考えると、年収面でも(意外と?)機械工学の夢はありそうですね!

  1. 経済産業省「理工系人材需給状況に関する調査結果概要↩︎
  2. MONOist「6000人のエンジニアが不足、日本が強み持つ半導体製造装置産業の課題↩︎
  3. 日本経済新聞「AIが仕分ける日本の雇用 NTT、34万人の業務「5年後に半分代替」↩︎
  4. 東洋経済ONLINE「「平均年収が高い会社」ランキング全国トップ500↩︎
  5. リクナビ2026「株式会社キーエンスの採用情報(初任給/従業員/福利厚生)↩︎
  6. レーザーテック「採用情報↩︎
  7. OpenWork「東京エレクトロン宮城の「採用情報」↩︎
  8. リクナビ2026「ファナック株式会社の採用情報(初任給/従業員/福利厚生)↩︎
  9. 中外製薬工業「設備管理|藤枝(機械系 専攻)↩︎
  10. GO!ひろしま「株式会社ディスコ↩︎
  11. 日本機械学会「ねじあわせ」就職インターンシップ情報「鹿島建設株式会社↩︎
  12. doda「株式会社ワコム 【技術職(機械・電気)】 の求人・中途採用情報↩︎
  13. マイナビ2027「ローツェ(株)【東証プライム市場上場】↩︎
  14. 武田薬品「光工場の採用情報↩︎
  15. SONY「ソニーグループポータル | 募集コース↩︎
  16. 日本郵船「職種紹介↩︎
  17. アステラス製薬「【富山】企画統制セクション 設備管理担当(Sr Asc, BioPharma Manufacturing)↩︎

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