こんにちは!キウイと申します。
産業機器メーカーで機械設計者として勤務しています。
今回は、「遊星ローラーねじ」という機械要素について解説します。
ベアリングやリニアガイド、ボールねじなど、機械設計では多くの直動要素を扱いますが、近年注目を集めているのが遊星ローラーねじです。今回解説する理由は、ヒューマノイドロボットのアクチュエータとして採用が進んでいるからです。
この記事では、遊星ローラーねじの構造や動作原理、ボールねじとの違い、主要メーカーについて紹介します。
「遊星ローラーねじという機械要素を初めて聞いた」「名前は聞いたことあるけど仕組みはよく知らない」という方でも理解できるように、動画や図解を交えて解説します。
ぜひ最後まで読んでいってください!
遊星ローラーねじとは
遊星ローラーねじとは、回転運動を直線運動に変換する機械要素(直動機構)です。英語では「Planetary Roller Screw」と呼ばれています。
動画で遊星ローラーねじの動きを見てみましょう。
遊星ローラーねじは遊星歯車と送りねじを組み合わせたような原理で、回転運動を直線運動に変換します。
遊星ローラーねじは直動機構の中でも負荷容量が高い、すなわち重い物を持ち上げる能力が高いです。そのため、油圧シリンダーの置き換えに電動モータ+遊星ローラーねじの組み合わせが用いられています。
電動プレス機や射出成型機、スポット溶接の溶接ガンなどに用いられています。
遊星ローラねじの構造と動作原理
下の図は遊星ローラーねじの断面図です。こちらを使って遊星ローラーねじの構造を解説します。

遊星ローラーねじの主要構成部品は、以下の通りです。
- シャフト:おねじが切られているシャフト
- ナット:遊星ローラーにかみ合う部品。ボールねじのナットと同じ役割を持つ
- 遊星ローラー:おねじが切られているローラーで、シャフトの周りを囲むように配置される
- リングギヤ:ナットと一体化し、遊星ローラーとナットの回転を同期させる役割を持つ
- 遊星キャリア:遊星ローラーの間隔を一定に保つ部品
遊星ローラーの両端部は、ネジが切られつつも、断面A-Aから見ると歯車形状にもなっています。この形状によってシャフトのねじ部分と、リングギヤの歯車部分の両方にかみ合います。遊星ローラーとナットは、このかみ合いによって回転が完全同期しています。
遊星ローラーねじの動作原理は、次のようになっています。
- シャフトが回転する
- 遊星ローラーがシャフト、ナットとかみ合い、自転と公転をする
- ナットが遊星ローラーの回転に応じて、送りねじの原理で直進する

上記はシャフトが回転し、ナットが並進移動する場合の動作です。
遊星歯車と同じように、回転する部品を変えることもできますので、
「ナットを回転させて、シャフトを直進させる」動きも可能です。
この動きをする製品は「逆遊星ローラーねじ(Inverted Roller Screw)」と呼ばれています。
逆遊星ローラーねじの動作は、次のようになっています。動作原理自体は遊星ローラーねじと同じですが、直動する部品がナットではなくシャフトになっています。

- ナットが回転する
- 遊星ローラーがナット、シャフトとかみ合い、自転と公転をする
- シャフトが遊星ローラーの回転に応じて、送りねじの原理で直進する
遊星ローラーねじとボールねじとの違い
直動機構と言えばボールねじが有名ですが、遊星ローラーねじとボールねじとの違いは何でしょうか?
最大の違いは、「遊星ローラーねじはボールねじより大きな力が出るが、スピードを出すのは苦手」となります。
遊星ローラーねじは線状で接している(線接触)のに対して、ボールねじは球とねじが点で接している(点接触)ところからきています。
下の図が遊星ローラーねじとボールねじの接触領域の違いを示したものです。遊星ローラーねじの方が接触領域が広く、そのぶんより大きな力を伝えることができます。

例として、Bosch Rexroth製の遊星ローラーねじとボールねじの基本静定格荷重を比較してみます。
シャフトの径がΦ20程度のボールねじ(25×5R×3-4)の基本静定格荷重C0は27.2kNに対し、遊星ローラーねじ(20×5R)のC0は80kNと、遊星ローラーねじが約3倍高いです1。
負荷荷重の計算は他にも考慮すべき点はありますが、同サイズであれば遊星ローラーねじはボールねじよりも約3倍重いものが持てると考えてよいでしょう。
一方、ボールねじの接触領域が小さいことは悪いことばかりではありません。転がりの際の抵抗が小さいというメリットがあります。そのため、最高速度や効率はボールねじに分があります。最高速度で言えば遊星ローラーねじは1.5m/s程度、ボールねじは2m/s程度となります。
また、効率面ではボールねじの方が有利です。下の図は遊星ローラーねじとボールねじの効率を表したものです。ざっくりですが、遊星ローラーねじの効率は80%程度、ボールねじの効率は90%程度となっています。

自転車でもスピードが出せるロードバイクはタイヤが細いですが、悪路に強いマウンテンバイクはタイヤが太いですよね。タイヤと地面の接触面積が小さいほうが、転がり抵抗が小さく、スピードを出しやすいです。
また、コストはボールねじの方が安くなります。これは遊星ローラーねじはローラーの両端に歯車加工をしたり、ローラー保持用のリングが付いたりなど部品のコストが比較的複雑だからですね。
ヒューマノイド用アクチュエータとして注目される遊星ローラーねじ
ヒューマノイドの開発が盛んになっている背景から、アクチュエータの主要機構として遊星ローラーねじは注目されています。同じ直動機構のボールねじよりも力が出せるため、ロボットの関節駆動機構として遊星ローラーねじが適しています。
Teslaのアクチュエータ開発チームの動画で、ヒューマノイド「Optimus」に遊星ローラーねじと思われる機構が採用されていることが確認できます。(動画1:01ごろ)
細長い形状でアクチュエータが作れるので、足の大腿部に仕込んで膝関節を駆動させたり、前腕部に仕込んで手首を動かす等の用途に使われています。
遊星ローラーねじのメーカー
ここでは、代表的な遊星ローラーねじのメーカーを紹介します。
Rollvis
Rollvisは1970年にスイスで設立された遊星ローラーねじの専門メーカーです。同社は高精度・高信頼性の遊星ローラーねじの定番企業として認知されており、産業用途の電動アクチュエータなどに採用されています。
Gewinde Satelliten Antriebe AG(GSA AG)
Gewinde Satelliten Antriebe AG(GSA AG)は1982年に設立されたスイスの遊星ローラーねじのメーカーです。同社は2019年に焼き入れ設備を新設し、切削から熱処理まで社内一貫生産体制を築いているのが特徴です。
Ewellix
Ewellixはスウェーデンに本社を置く直動機器メーカーです。2023年にはSchaefflerグループ傘下となり、医療機器や産業オートメーション向けに遊星ローラーねじやボールねじ、シリンダー型アクチュエータなどの製品を展開しています。
Ewellixの遊星ローラーねじは、NASAの火星探査ローバー「Perseverance」の試料管封印装置に採用されました2。
Moog
Moogは1951年に米国で創業されたモーションコントロール製品のメーカーです。航空宇宙、防衛、産業機器、医療機器向けに電気式・油圧式のモーション製品(電動アクチュエータなど)を提供しています。
同社の遊星ローラーねじは、イタリアの工場で生産されており、カスタム使用の製品を6週間のリードタイムで生産できるようです3。
Bosch Rexroth
Bosch Rexroth(ボッシュ レックスロス)は、ドイツの産業機器メーカーです。自動車部品メーカーのRobert Boschグループの子会社となっています。
同社のカタログでは、サーボプレスや射出成型機に遊星ローラーねじが使われている様子が確認できます。
NTN
NTNは日本のベアリングメーカー大手企業です。同社の遊星ローラーねじ単体の販売は確認できませんが、同社の自動車電動パーキングブレーキに遊星ローラねじが使われています。

諾仕機器人(NOUS BOT)
諾仕機器人(NOUS BOT)は中国・深セン発のスタートアップ企業で、ロボット用遊星ローラーねじを手掛けています。
同社は超小型の遊星ローラーねじを開発しており、シャフト直径1.5mm、ナット径5.5mmの世界最小遊星ローラーねじの量産に成功しています4。
エンジェルラウンドで上海汽車傘下の上汽創投(SAIC Capital)から資金を調達したこともニュースになっています5。
禾川科技(HCFA)
禾川科技(HCFA)は2011年に設立された中国の産業オートメーションのメーカーです。
同社は近年、ヒューマノイドロボットの分野に参入し、遊星ローラーねじを用いたヒューマノイド用リニアアクチュエータ「Hu-MLSシリーズ」を製品化しています6。
同社のHu-MLSシリーズのカタログには、リニアアクチュエータの使用部位が示されています(下図)。型番に応じて手首関節から膝関節まで使えるラインナップがあります。

同社は2024年に浙江禾川人形机器人有限公司という子会社を設立し、同年8月に自社開発のヒューマノイドロボット「YOLO01(游龙01)」のプロトタイプを完成させました。ものづくり太郎氏の中国ヒューマノイド展示会の動画(9:05あたり)に出ているのが、それだと思われます。
京鹏机械設備
京鹏机械設備は2015年に中国・上海で設立された直動機器メーカーです。ドイツ発祥の「YOSO」ブランドと提携し、遊星ローラーねじやボールねじ等の直動機構部品の開発・製造・販売をしています。
ヒューマノイド向けの遊星ローラーねじも手掛けているようです。
遊星ローラーねじは日本企業のラインナップが少ない
遊星ローラーねじは、日本企業の取り扱いが少ない機械要素です。これまで見てきたように、世界の主要メーカーの中に日本企業はなく、唯一取り上げたNTNも電動パーキングブレーキ用と限られたアプリケーションの取り扱いとなっています。
ベアリングやリニアガイド、ボールねじなど、日本製の機械要素は多く、世界的にも品質面で高い評価を受けています。その中で遊星ローラーねじの取り扱いが少ないのは珍しく思います。
これは推測なのですが、その背景には伝統的な自動車産業においては遊星ローラーねじが必要とされる機械がほとんどなかったと思われます。プレスや射出成形においても、油圧シリンダーが使われてきて、電動モータ+遊星ローラーねじの置き換えは少なかったのでしょう。
しかし現在、ヒューマノイドロボットの開発が世界的に進む中で、遊星ローラーねじはヒューマノイドの主要なコンポーネントとして注目されています。
完成品メーカーが本格的に量産体制を築くためには、その基盤となる部品メーカーの存在が欠かせません。とくに国内メーカーであれば、商談や技術的な対応がしやすく、品質や納期面でも優位に立てます。
日本がヒューマノイドロボット開発を進めるには、こうした高負荷対応の直動要素を国内で供給できる体制づくりも1つのポイントになるでしょう。筆者としては、将来的にTHKやNTNといった直動機器メーカーがヒューマノイド向けの遊星ローラーねじを展開していくことを期待しています。
- Bosch Rexroth「Media Details」 ↩︎
- Ewellix「Ewellix Planetary Roller Screw Lands on Mars」 ↩︎
- 日本ムーグ株式会社「カスタム遊星ローラースクリュー・受注後6週間での短納期出荷」 ↩︎
- 深圳市诺仕机器人「-展商信息-2025世界机器人大会-2025世界机器人大会」 ↩︎
- 36Kr Japan「世界最小の遊星ローラーねじを量産へ 中国スタートアップ「Nous Bot」、上海汽車が出資」 ↩︎
- 浙江禾川科技股份有限公司「Linear Actuator」 ↩︎

