昇降やクランプの機構を考えていると、「ボールねじほどの精度はいらないが、直線状に動かしたい」という場面が出てきます。そこで候補に挙がるのが台形ねじです。
今回は現役の機械設計者である筆者が、台形ねじの規格・用途・ボールねじとの違いから、実際に使うときのポイントまでを解説します。
「台形ねじはどんな規格があるか・どんな用途があるか知りたい」
「初めて取り扱うので、選定をする上で最初に知っておくべきポイントを知りたい」
という方は、今回の記事が参考になれば嬉しいです。
キウイです。現役の機械設計者の仕事をやりつつ、ブログ「キウイ設計」を運用しています。
キウイ設計では、設計者の人手不足を感じている企業向けに機械設計の業務委託を行っています。図面1枚からの小規模案件も対応いたします。お問い合わせ・お見積りは無料です。お気軽にご相談ください。
台形ねじとは


台形ねじとは、ねじ山の断面が台形になっているねじのことです。回転運動を直線運動に変える「送りねじ」として使われます。ねじ軸(おねじ)とナット(めねじ)が滑りながら動くため、分類としてはすべりねじの一種です。
一般的な台形ねじでは、ねじ山は30°の台形になっています。また、隣同士のねじの間隔(山と山の間)をピッチと呼びます。
動作原理は、ねじ軸を回転させるとナットがねじ溝に沿って直線方向に移動するというものです。
実際に動いている様子は下記の動画が分かりやすいです。
ねじ軸は自由に回転するが並進移動はしないように固定され、ナットは直線方向は自由に移動するが回転はしないように固定される構成が一般的です。
ボルトやナットに使われている三角ねじとは、そもそも目的が違います。三角ねじは締めるためのねじで、緩みにくいことが求められます。台形ねじは送るためのねじで、少ない力で滑らかに動くことが求められます。
なぜ送りねじに台形が選ばれるのか
送りねじの候補としては、角ねじもあります。ねじ山の断面が四角いねじです。
角ねじは台形ねじより効率が良いねじです。ねじ山が軸に対して垂直なので、力が斜めに逃げないためです。ただし、加工が難しく、コストが高くなるという弱点があります。
これに対して台形ねじは、角ねじよりも製作しやすく、強度も高いという特徴があります。総合力で優れているため、送りねじでは標準的に採用されています。
なお、ねじ山の断面が丸い丸ねじもあります。角がないぶん異物や衝撃に強く、電球の口金などに使われています。ただ、負荷能力とコストの面から、一般的な送りねじに使われることは少ないです。


台形ねじの寸法


台形ねじは「おねじ」と「めねじ」で以下のように寸法が規定されています。
| 記号 | 寸法 |
| D | めねじの谷の径 |
| D1 | めねじの内径 |
| D2 | めねじの有効径 |
| d | おねじの外径 |
| d1 | おねじの谷の径 |
| d2 | おねじの有効径 |
有効径は、おねじとめねじが接触する範囲のちょうど中間にあたる直径です。ねじ山の頂と谷底の中間くらいと考えて差し支えありません。
台形ねじの寸法はJIS B0216で規定されており、各メーカーの寸法表や「JISにもとづく機械設計製図便覧
JIS規格は、以下の記事で無料で閲覧する方法が解説されています(外部記事です)。
台形ねじの規格|TMとTrの違い
台形ねじを調べると、TrのほかにTM、TWといった規格を目にすることがあります。
ここでは、台形ねじの規格について解説します。
Trは現行のJIS規格、TMは旧規格
Trは現行のJIS規格によるメートル台形ねじで、ねじ山の角度は30°です。現在市販されている台形ねじは、Tr規格になっています。TMは旧JISの30°台形ねじで、すでに廃止されています。
ねじ山の角度は同じ30°ですが、実務上の決定的な違いがあります。Trにはねじ寸法の許容寸法が定められていることです。JIS B0217-2で、台形ねじの寸法(めねじの内径D1、おねじの外径dなど)の許容最大寸法、最小寸法が規定されています1。
一方、TMには台形ねじの許容寸法の規定はありません。そのため、つくられたねじの寸法合格範囲は不明瞭でした。許容寸法は台形ねじの加工メーカー側と発注元で協議して決めていたようです。
TM規格は既存機械の部品交換のときに需要があると思われますが、基本的には現在流通しているTr規格の台形ねじを使うようにしましょう。
29°台形ねじ(TW)


29°台形ねじ(TW)という規格もあります。こちらはねじ山の角度が29°で、ピッチを25.4mm(1インチ)あたりの山数で規定します。
TW台形ねじは、かつてJISで規定されていましたが、現在は廃止されています。山数にインチを用いているのでアメリカで使われていると思うかもしれませんが、アメリカでの台形インチねじはASME B1.5という規格で別途定められています。
TWねじはメーカーの寸法表で見かけることはありますが、新規の設計で選ぶことはまずありません。「29°のものもあるが、今は使わない」と覚えておけば十分です。
「Tr20×4」の読み方
台形ねじの呼びは、次のように読みます2。
- Tr20×4 :呼び径20mm、ピッチ4mmのメートル台形ねじ
※呼び径はおねじ→外径、めねじ→谷の径を表す。
ここで注意したいのが、多条ねじの場合はピッチとリードが違うことです。1回転で進む距離がリード、ねじ山の間隔がピッチです。1条ねじなら両者は一致しますが、2条ねじならリードはピッチの2倍になります。
多条ねじの場合は「Tr20×8(P4)」のように、リード(8mm)とピッチ(4mm)を併記した表記になります。送り量の計算に使うのはリードのほうなので、設計計算で間違わないように注意しましょう。
台形ねじの用途|何に使われているか


台形ねじが使われているのは、次のような機構です。
- 手動ジャッキ
- 万力やクランプ
- 金型・治具の開閉機構
- 昇降テーブル
- 手動の位置調整機構
- バルブの弁棒
- 簡易的な電動アクチュエータの送り機構
一見ばらばらに見えますが、台形ねじが適する用途には共通点があります。
速くなくていい。頻繁に動かさない。安くしたい。この3つです。
逆に言えば、精度よく位置決めしたい機構、高速で連続的に動かしたい機構にはボールねじが選ばれます。
台形ねじとボールねじの違い


台形ねじとボールねじはどちらも「ねじで送る」直動機構ですが、大きく違うのは接触の仕方です。台形ねじはねじ軸とナットがすべり接触しますが、ボールねじは転がり接触となります。この違いが両者の特徴や用途を大きく異なるものにしています。
ボールねじの仕組みについては、以下の記事で詳しく解説しました。「ボールねじについて詳しく知りたい」という方はご参考ください。


比較表
台形ねじとボールねじの特徴を比較すると、以下の通りです。
| 項目 | 台形ねじ | ボールねじ |
|---|---|---|
| 接触の仕方 | すべり | 転がり |
| 効率 | 約20~30%3 | 約95%4 |
| 位置決め精度 | 低い | 高い |
| バックラッシュ | 大きい(対策は可能) | 小さい(予圧で詰められる) |
| セルフロック | する | しない |
| 価格 | 安い | 高い |
| 高速・連続運転 | 苦手 | 得意 |
台形ねじのデメリット
台形ねじのデメリットは、次の4つに整理できます。
- 位置決め精度が低い
- バックラッシュが大きい
- 効率が低く、ボールねじよりも動かすのに大きなトルクを必要とする
- 頻繁に動かすと摩耗しやすい
4つともばらばらの欠点ではなく、すべり接触であることから来ています。台形ねじはねじ軸の「おねじ」とナットの「めねじ」がすべりながら接触します。「すべり接触」はボールが転がる「転がり接触」よりも摩擦力が大きく、これがデメリットに繋がるのです。
摩擦の影響が大きくなる分、位置決め精度を低下させる要因となります。また、ナットをすべりながら動かす以上わずかなすき間が必要で、これがバックラッシュの原因になります。摩擦が大きいということはその分ねじ軸を回す動力が摩擦に食われる(=効率が低い)ことになります。また、摩擦によって接触面が削れやすくなり、その分寿命が短くなります。
裏を返せば、この4つが問題にならない機構であれば台形ねじで十分、ということでもあります。
台形ねじを選んだ方がいい場面
ここまでだと、台形ねじはデメリットも多く、ボールねじのほうが優れているように見えます。
実際、精度と速度が必要な直動機構にはボールねじが多く採用されています。
ただし、台形ねじのほうが向いている場面もあります。
- 位置決め精度がそれほど要求されない用途(0.1mmオーダー~1mmオーダーなら台形ねじで十分)
- セルフロックが欲しい
- コストを抑えたい
- 動かす頻度が低い
セルフロックとは、ナット側を動かしてもねじ軸が回転しないことを意味します。
車を手回しハンドルで持ち上げるジャッキは、セルフロックできる台形ねじが選ばれています。
ボールねじを選んだ方がよい場面
ボールねじは、「効率が良い、位置決め精度が高い、高速・連続運転が得意」という利点を活かして次のような場面で使用されています。
- 高精度位置決め用途(筆者の経験的に、μmオーダーの位置決めまで対応する)
- 高速で位置決めしたい用途
ボールねじは、位置決め精度と速度・価格のバランスが良く、実際にものづくり・自動化生産の現場では多く使われています。
たとえば、半導体製造装置にボンダーと呼ばれるものがあります。この装置はカットされたウエハからチップを拾って、半導体の基板となるリードフレームに取り付ける装置です。チップを正確に位置決めする必要があり、連続的な動作も求められます。ボンダーの水平軸・昇降軸にはボールねじが使われています。
台形ねじがセルフロックする理由


台形ねじは、ナット側を押してもねじ軸は回転しません。このように、出力(ナット)から力を加えてもモータや手回しの入力(ねじ軸)が動かないことをセルフロックと言います。
ここでは、なぜ台形ねじがセルフロックするかを解説します。
セルフロックが効く条件
ねじ山は、軸のまわりを回るゆるやかな斜面だと考えると分かりやすくなります。この斜面の傾きがリード角です。
斜面の傾きが、摩擦で止まっていられる角度より小さければ、荷重をかけても滑り落ちません。これがセルフロックです。いくらナットに軸方向の力が加わっても、ナットが斜面を滑る力よりも摩擦力が上回っていれば動かないのです。
1条の台形ねじなら、台形ねじのリード角は2〜5°程度しかありません。かなり緩い坂です。一方、摩擦で止まっていられる角度は、ナットの摩擦係数(0.13〜0.21程度)から逆算すると8〜12°程度になります。なので、台形ねじにおいてはリード角(斜面の傾き)<摩擦角となり、セルフロックします。
裏を返せば、台形ねじでもリード角を大きくすると斜面が急になり、セルフロックしなくなります。2条ねじ以上の多条ねじになればリード角>摩擦角となることも考えられるので、多条ねじを選定する場合はメーカーにセルフロックの有無を確認しましょう。
台形ねじのセルフロックを落下防止として当てにしてよいか
筆者の回答としては「用途によるが、落下することによる被害が大きい場合は他の落下防止策を併用するべし」です。
セルフロックが効くかどうかは摩擦で決まります。そして摩擦係数は、潤滑の状態や摩耗の進み具合で変わります。リード角と摩擦角の関係から考えて大丈夫そうでも、変動する摩擦係数に落下防止を頼るのは少々心もとないです。
セルフロックは「あれば安心材料になるもの」であって、「安全装置として設計に組み込むもの」ではないと考えています。
垂直軸でワークを保持する機械なら、ブレーキ付きモータや落下防止のストッパを使い、これらの保持力で落下しないように設計するのが安全だと筆者は考えます。
逆に、落下しても大きな事故やケガにつながらない機械(例えば、ローエンド3Dプリンタの上下軸)であれば、台形ねじのセルフロックを活かして落下防止機構をオミットし、コストダウンにつなげる設計方針はありだと考えます。
台形ねじのナットの材質
台形ねじのナットの材質は、次の2種類に大別されます。
- 金属系材料:黄銅(C6782)や青銅(BC-6)の銅合金系金属
- 樹脂系材料:POMやPPSベースの高強度樹脂
金属系材料で使われるC6782やBC-6は、
- ねじ軸の鋼材を傷つけない程度に柔らかく、かつ強度が高い
- 摺動したときにかじりつきが起こりにくい
- 加工性・入手性のバランスが良い
といった特徴のため、台形ねじのナットによく使われています。
金属系材料は樹脂系材料よりも負荷が大きい(ざっくり10倍の負荷を持てる)のが樹脂系材料と比べて有利な点です。
金属系材料のナットはグリースで潤滑するのが基本ですが、グリース不要の無給油タイプもあります。これはナットの中に固体潤滑剤を埋め込んでおり、メンテナンスフリーが求められる製造現場で重宝されています。
ミスミの商品ラインナップに無給油タイプのナットがあります(リンク先 写真の黒い部分が固体潤滑剤です)。
ナットに使われる樹脂系材料は、以下のような特徴を持っています。
- 自己潤滑性を持つため、潤滑のための給油が不要
- 樹脂の中でも比較的強度がある
- 材料コストや成形性のバランスが良い
樹脂系材料は給油が不要で、基本的にメンテナンスフリーなことが金属系材料と比べて有利な点です。
ナットの材質の使い分けですが、ざっくり「大きな負荷は金属系材料で、小さな負荷は樹脂系材料を使う」という認識があればまずはOKです。
その上で、
- 後述するPV値から負荷・速度の条件が合うか
- 調達性の良いメーカーかどうか
- コストを重視するか、性能(耐食性や耐熱性など)を重視するか
などの細かい条件を見たうえで総合的に判断しましょう。
台形ねじを使うときのポイント
ここからは、実際に台形ねじを選定し、送り機構の設計に使うときに気を付けるべきポイントを3つ紹介します。
①ガイドとセットで使う


台形ねじは、リニアブッシュやリニアガイドといったガイドと組み合わせて使うのが基本です。
ねじに横方向(ねじ軸に垂直方向)の力がかかると、ナットの当たりが偏ります。その偏りによって、ナットの一部が局所的に摩耗する異常摩耗に発展します。
ガイドとセットで使うのは、ボールねじなど他の直動機構も同じですので、覚えておきましょう。
なお、工場の自動化機器でよく使われる直動機構は次の記事で解説しました。


②使用条件(負荷・速度)で使えるかはPV値で決める


台形ねじは送り機構で使われるため、「どのような負荷(荷重、力)がかかり、どれくらいの速さで動かすか」という使用条件があるはずです。
メーカーは、接触面圧とすべり速度をかけ合わせたPV値で使用範囲を決めています。PV値で使用条件が適しているかを判定する手順は以下です。
ねじ軸の軸方向にかかる荷重を求めます。
ナットがねじ軸をすべる速度(ナットが並進する速度ではない)を求めます。
メーカーが公開しているPV値グラフを参照し、PとVの値がグラフの内側にあるか確認します。
カタログのグラフにP、Vをプロットして、線の内側に入っていれば異常摩耗は起きない、という判定のしかたです。
詳しい計算方法はミスミの技術情報にまとめられているので、選定時の設計資料として参考にしましょう。
③ナットを交換しやすい構造にしておく
台形ねじを長期間使うと、ナットが摩耗します。ねじ軸が鋼系材料で、ナットが銅合金や樹脂系材料なので、ナットのほうが柔らかいためです。
そこで、長く運転する機械はナットを交換しやすい設計にしておきましょう。
- ナットを交換する際、機械を全部ばらす必要がない構造にする
- 台形ねじの送り機構をユニット化して、ユニットごと機械から取り外せるようにする
筆者であれば、上記のような設計ができないか意識します。
まとめ:簡易的な送り機構は台形ねじを検討しよう!
今回は、台形ねじの規格・用途・ボールねじとの違いと、使うときのポイントを解説しました。これらは台形ねじを取り扱ったり、設計で機械に組み込んだりする際に必要な基礎知識です。
- 台形ねじは送りねじとして標準的に使われる
- 新規設計ならTr規格。TMは旧JISで廃止済みの規格
- 位置決め精度を重視する機構はボールねじを、価格やシンプルさを重視する機構は台形ねじを採用する
- 台形ねじはリード角<摩擦角のため、摩擦力が打ち勝ってセルフロックする
- ナットの材質は金属系材料と樹脂系材料の2種類に大別。まずは負荷の大小で決める
- 台形ねじは、ガイドとセットで使う
- 負荷・速度条件はPV値グラフで確認
- 台形ねじを用いる機械は、ナットを交換できる構造にしておく
本記事を参考に「自社の用途やお客様への提案時にぴったりなのはどの台形ねじか」など、台形ねじを使った商談や設計に活かしてもらえると幸いです。
なお、送りねじには遊星ローラーねじという直動機構もあります。大きな推力が必要な場合は、こちらも選択肢に挙がってくるでしょう。
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- 設計者が足りず、社内の設計者が上流の仕事に手を回す時間がない
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筆者キウイは東証プライム上場メーカーで、約15年にわたって機械設計に携わってきました。これまで、送りねじ機構を使った搬送装置、ロボットハンドの開発、振動・騒音を考慮したモータの構造設計など、動力伝達機器を中心とした機械設計の実績があります。
メーカー勤務と個人事業で機械設計の仕事をしており、両方を経験しているからこそ、貴社の状況を理解しながら伴走いたします。貴社の事業内容や課題をヒアリングさせていただき、最適な協業の形をご提案できればと思います。
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