中小企業の人材確保は、なぜこれほど難しいのでしょうか。「求人を出しても応募が来ない」「採用できても、すぐに辞めてしまう」——その悩みは年々深刻になっています。
本記事では、中小企業が人材を確保できない課題を5つに整理し、その対策を「基本の打ち手」と「採用にこだわらない発想の転換」の両面から解説します。
筆者は現役の機械設計者として企業に勤めながら、機械設計・開発の業務委託を行っています。設計リソースが足りない中小企業を外から支える立場として、発注する側・受ける側の両方の目線でまとめました。
「設計や開発の人手が足りない」という方は、正社員を採用する前に外部へ委託するという選択肢もあります。記事の後半で具体的に触れますので、自社に合う打ち手を探す参考にしてください。
中小企業の人材確保は今どうなっている?

人手不足は、もはや「採用がうまくいかない」という次元の話ではなくなっています。
帝国データバンクの調査によると、人手不足を原因とする倒産は2025年度に441件と過去最多を更新しました。前年度の350件から約1.3倍に増えています1。しかも倒産した企業の多く、およそ4分の3は従業員10人未満の小規模企業です。人を採れないことが、そのまま会社の存続を脅かす時代になりました。
日本商工会議所の調査でも、中小企業の63.0%が人手不足と回答しています2。多くの経営者にとって、人材確保は「未来の課題」ではなく「今現在の課題」です。
なお、人手不足が特に深刻なのは建設・運輸・介護・製造といった現場系の業種です。前述の人手不足倒産も、業種別では建設業が112件と最多でした。製造業の中でも、機械や電気の設計・開発を担う技術者は売り手市場が続いており、中小企業が自社で抱えるのは簡単ではありません。
中小企業の人材確保における5つの課題

人材確保について、中小企業が抱える課題を5つに整理します。
課題1:募集しても応募が来ない
まず多いのが、そもそも応募が集まらないという悩みです。
求人を出せば人が来る、という時代はすでに終わりました。求職者の多くは、知名度や安定性で大手企業を志向します。中小企業は、自社の存在を知ってもらうところからハードルがあり、母集団(応募者の集まり)を形成できないまま空席が続きます。
採用にかけられる予算も、大手とは差があります。広告費を潤沢に投じられない中小企業は、求人媒体に掲載しても埋もれてしまいがちです。「待っていても応募は来ない」という前提に立つ必要があります。
課題2:賃金・待遇のミスマッチ
応募があっても、条件が折り合わず採用に至らないケースです。
求職者が転職先を選ぶとき、重視する項目のひとつが賃金水準です。大企業との賃金格差は中小企業にとって構造的な弱みで、提示できる額と求職者の希望額のギャップが採用の壁になります。実際、株式会社学情の調査によると20代後半~30代の転職理由は「給与・年収をアップさせたい」が最も多い結果となりました3。
ただし、無理な賃上げは経営を圧迫します。賃金だけで勝負するのは中小企業にとって得策ではなく、後述するように待遇以外の魅力づけや、そもそも正社員採用以外の手段を組み合わせる発想が重要になります。
課題3:採用しても定着しない
苦労して採用しても、早期に辞められては、かけたコストが回収できません。
厚生労働省の調査では、新規学卒者の3年以内離職率は事業所の規模が小さいほど高い傾向があります4。言い換えれば、中小企業ほど「採れても辞められる」リスクが大きいということです。
課題4:採用活動に手が回らない
そもそも採用活動に手が回らない、という課題も根深いものです。
中小企業では人事の専任者がいないことが多く、経営者や現場の管理職が他の業務と兼任で採用を担っています。母集団の形成、求人票の設計、候補者への対応まで、片手間でこなすには負担が大きいのが実情です。
実際、人材の確保や育成を経営上の重要な課題に挙げる中小企業は多いです5。課題だと分かっていても、対策に割く時間と人手が足りないというのが実態です。
課題5:労働人口の減少という構造要因
最後は、個社の努力だけでは抗えない構造的な要因です。
日本の生産年齢人口(15~64歳)は減り続けています。1995年をピークに、2050年には5,275万人(2021年から29.2%減)に減少すると見込まれています6。
働き手の母数そのものが縮小していく以上、「採用を頑張れば解決する」という発想そのものには限界があります。だからこそ、採用力を磨く努力と並行して、「社員を雇う以外の方法で人材をどう確保するか」という発想の転換が必要になります。
中小企業の人材確保の課題への対策【基本編】

まずは、多くの企業が取り組む王道の採用戦略・対策を押さえておきましょう。
求人像と採用チャネルを見直す
「どんな人に来てほしいか」を具体的に定義し直すことから始めます。求める人物像が曖昧なままだと、求人票の訴求もぼやけてしまいます。
そのうえで、採用チャネルを一つに頼らず組み合わせます。求人媒体だけでなく、社員からの紹介(リファラル採用)、SNSや自社採用ページ、ハローワーク、人材紹介などを使い分けることで、出会える層が広がります。
働きやすい職場環境をつくる
賃上げが難しくても、待遇で打てる手はあります。
フレックスタイム制度や時短勤務制度、テレワーク、残業の削減といった柔軟な働き方は、求職者にとって魅力になります。
近年共働き世帯の増加により、労働者は自由度の高い働き方を求める傾向があります。「賃金は大手に及ばなくても、働きやすさで選ばれる会社」を目指すのは一つの方向性としてアリでしょう。
職場環境改善により人材の離職率を下げた事例は中小企業白書(こちらのp.209 株式会社たまゆら様)でも紹介されています。
定着率を上げる
採用と同じ熱量で、辞めさせない工夫に投資します。
入社後の受け入れ(オンボーディング)、研修、公正な評価制度やキャリアパスの提示は、早期離職を防ぐ基本です。新しく採用するより、今いる人材に長く活躍してもらう方が、費用対効果は高くなります。
公的支援・助成金(人材確保等支援助成金など)を活用する
国の支援制度も、こうした選択肢があることは知っておきましょう。
例えば、職場環境の改善などを支援する厚生労働省の「人材確保等支援助成金」7や、省力化のための設備投資を支援する中小機構の「中小企業省力化投資補助金」8があります。要件や金額は制度ごとに異なるため、詳細は各窓口で確認してください。本記事では深入りしませんが、使えるものは活用したいところです。
発想を変える:採用にこだわらない中小企業の人材確保

採用が構造的に難しいのであれば、従来主力であった「新卒の社員を育てる」「正社員として雇う」以外の方法で戦力を確保する発想が要ります。そして、それこそが中小企業が事業継続・発展に必要な人材を確保するこれからの有効な手段だと筆者は考えています。
即戦力の早期退職・シニア人材を活かす
いま、高いスキルを持つ早期退職・シニア人材が大企業から転職市場に出回りつつあります。
大手企業では早期・希望退職の募集が高水準で続いており、2025年度は対象者が2万人を超え、その8割は黒字企業によるものでした9。これは裏を返せば、経験豊富な人材が市場に出やすくなっているということです。シニアの副業求人もこの3年で倍増しています10。
中小企業の側も、受け入れに前向きです。日本商工会議所の調査では、中小企業の約6割が外部のシニア人材の受け入れに前向きで、すでに4社に1社が受け入れていると回答しています。
フリーランス・副業人材を業務委託として活用する
もうひとつの有力な選択肢が、フリーランス・副業人材を業務委託として活用することです。
正社員を一人雇うと、給与だけでなく社会保険料や教育コスト、そして「合わなかったときに辞めてもらいにくい」という雇用リスクも抱えます。業務委託なら、必要な業務を必要な分だけ、即戦力に任せられます。設計・開発、IT、デザイン、経理などの専門業務は、業務委託と相性が良い領域です。
設計者の業務委託(できることや仕事の流れ)は、以下の記事で詳しく解説しました。

ポイントは、何を社内に残し、何を社外に委託するかの切り分けです。マネジメントや情報管理、事業の核となる業務は社員が担い、専門性が高くスポットで発生する業務は外部に委託する。もちろん、社内にノウハウが残りにくい、機密管理に配慮が必要といった注意点もあります。だからこそ、この線引きができれば、業務委託は失敗しにくくなります。
実は、この選択肢にはまだ大きな伸びしろがあります。副業・兼業人材を活用・受け入れを予定している企業は、約20%にとどまっています11。2024年11月には取引の適正化を図るフリーランス法も施行され、外部人材を使いやすい環境が整いつつあります。「これからは中小企業が業務委託で仕事を広げていくのが主流になる」という見解もあります12。筆者も、採用難が続く以上は外部人材の活用が合理的になっていくと考えています。
とりわけ設計・開発のような専門職は、業務委託に向いています。機械や電気のエンジニアは売り手市場が続いており、2026年5月の転職求人倍率は全体よりも高水準です13。正社員としての採用が難しくても、専門スキルを活かす方向で業務委託するのは中小企業の人材不足にマッチする方策です。
社外人材を活用するその他の方法
社外人材を活用するその他の方法としては、派遣会社や設計会社の活用があります。
派遣会社は、必要なスキルを持つ人材を一定期間自社に派遣してくれる会社です。技術者を社内に常駐させて働いてもらう形となります。基本はフルタイム前提で、製造業の技術者だと派遣料金はフルタイムでおおよそ月50~70万円程度です。
派遣の単価・相場については、下記の記事で詳しく解説しました。

設計会社への外注は、3Dモデリングや図面作成といった工程を切り出して発注します。必要な部分だけを任せることができ、社内の設計リソースの負荷を下げることができます。案件を組織で対応するので、「大量の組図のバラシを行いたい」といった大口案件に対応しやすいです。
ベトナムなど新興国の設計者を活用し、人工(1人あたりの時間単価)を安く抑える工夫をしている設計会社もあります。筆者の知り合いのベトナムの設計会社では、単価は1,500円~2,500円で依頼が可能だそうです(2026年6月現在)。製造業の技術者の派遣単価が約3,500〜4,100円くらいですから、半額近くの単価で依頼できそうです。
設計を外注する方法については、下記の記事でも詳しく解説しました。

まとめ:課題を正しく捉え、「採用以外」の選択肢も持つ
中小企業の人材確保の課題は、次の5つに整理できます。
- 募集しても応募が来ない
- 賃金・待遇のミスマッチ
- 採用しても定着しない
- 採用活動に手が回らない
- 労働人口の減少という構造要因
これらに対し、求人や働きやすい環境整備、定着の仕組みづくりといった基本の対策は欠かせません。そのうえで、労働人口が減り続ける以上、「正社員採用だけで戦力をそろえる」発想には限界があります。シニア人材の活用や業務委託といった、採用以外の選択肢を組み合わせるハイブリッドな体制が、これからの現実的な解になっていきます。
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